領域代表挨拶

北海道大学電子科学研究所 教授
領域代表 中垣 俊之

専門分野
物理エソロジー、原生生物学、数理生物学、生物物理学

研究室HP

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 この度、幸いにも本領域推進の貴重な機会をいただくことができ、領域関係者一同大変嬉しく思っております。と共に、大きな責任を真摯に受け留めており、身の引き締まる思いであります。
 私たちは、微生物、と言っても主に真核単細胞生物(原生生物)の運動や行動に関心を向けてまいりました。原生生物は、進化的には、動物や植物、カビやキノコなどの多細胞生物への入り口にあたり、広範な遺伝的多様性をもたらしています。そのため、運動形態も多様化しており、またそれに応じた行動様式も様々です。こんな生き物を長らく見つめてきて、この細胞たちは日々野外では一体何をしているのだろうと、ずっと不思議に思ってきました。

 ふと思えば、多くの動物だって、例えば受精するとき(生活環で最も重要かつ劇的なイベント)にはたった一つの細胞(精子)となって、卵子を求めて動いていきます。あたかも単細胞性の生き物に戻ったかのようです。他方、野外にはまだ調べられていない原生生物がたくさん潜んでいて、自分自身の行動様式で自分自身の生を営んでいることでしょう。
 真核生物が、この世に現れて10億年ともそれ以上ともいわれており、その長い地質年代を通じて、細胞行動の様式は、よくよく磨き上げられているのではないかと思います。おそらく、目まぐるしく移り変わる野外環境で、思いもかけないやり方で、巧みな適応行動をしているのではないかと思います。まずは、どんな適応能力を秘めているのか、探索したいと思います。そのために私たちは「ジオラマ行動学」という方法論を明示的に掲げました。

 さて、これらの適応行動の仕組みとは、どんなものでしょう?細胞は、遺伝子やタンパク質などの分子運動や化学反応に基づいて、能動的にエネルギーを作り出して運動できます。細胞マシーナリーの研究は目覚ましいものがあります。細胞は、足場の性質に合わせて推進力を得て、例えば入り組んだ形の障害にぶつかりながら、また化学物質や温度、光などに応答しながら動いたり止まったりします。物質が集まって運動することで、細胞自体の運動が成り立っています。
 と思えば、物質の運動法則で細胞運動の様式も書き下せるのではないかと思いたくなります。多分、原理的にはその通りだと思いますが、分子の運動レベルから書き上げて計算するには、なかなかどうして骨が折れることと思います。一方で、少々現象論的ですが巨視的な運動方程式でもって捉えることもまた有効です。私たちは、前者にも注目しながら主に後者の立場で細胞運動の力学モデルを作ろうと思います。理論や計算の手法を駆使して徹底的に推し進めたいと思っています。
 ひとたび、細胞行動の力学モデルができた暁には、その運動様式を別の視点で捉え直してみたいと思います。すなわち、ある環境下で、より良い(例えば、生存戦略として適応度の高い)適応行動を生み出すためのアルゴリズムとして評価します。原生生物などの単細胞性生物の行動に現れるものなので「原生知能のアルゴリズム(ヒューリスティクス)」と私たちは呼ぶことにしました。

 本領域を特徴付けるキーワードは、複雑環境(ジオラマ環境)、細胞行動、力学モデル化、原生知能アルゴリズムなどです。ひとりで全てをカバーするのはなかなか難しいものですが、自分の得意な分野に足場を固めつつ関連研究者と積極的な共同研究を展開するのが有効です。計画班では、全体概念、行動実験、計測技術、数理モデリング、計算技術、などを領域内で共用化もしくは支援できるようにしております。想像しますに、本領域に関連する研究をなさっている方々は、いろいろ異なる分野に分散しておられるのではないでしょうか。これを一つの機会と捉えて、ご自身の研究の展開を図るとともに、それをもってしてジオラマ行動力学の確立に向かって共に歩んでいけたらと願っております。

 多くの方々のご支援、ご協力を賜りますようどうぞよろしくお願い申し上げます。

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